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週末の夜を生野で過ごす

生野に住んで20年になる。この街に住んだきっかけは、たまたま結婚した相手が生野の人だっただけのことである。

20年という時間は長いようで短い。夫しか知り合いがいなかった私も、子育てを経験し友達もできた。最近では子どもたちもずいぶん大きくなって、夫婦だけで飲みに出る時間もたまに持てるようになった。

子どもたちを近所にある夫の実家に預けて、住宅密集地を貫くように伸びる商店街のアーケードを歩く。夕方で営業が終わりシャッターの降りた八百屋や洋品店の合間にぽつぽつとある居酒屋を何件か通り過ぎる。どこの店からも賑やかな声と人の影が見える。

しばらく歩くと、私たち夫婦のお気に入りの店がある。のれんをくぐるとカウンター席にはご近所から歩いてきたと思われる高齢なお達者の皆さんがずらり。夕飯を食べに来たのだろう。テーブル席は予約済みのプレートが立っている。

「少し待ってもらえたら開きますよ」という店主に「またにするわ~」と手を振って次の店に向かう。2軒目。ちょっと重たいドアを開けると、やっぱりカウンターは満席。仕方ないのでもう少し歩いて3軒目。商店街を抜けた環状線の駅前である。

オープンフロアな店内はまだ半分近く空席だった。ようやく腰をおろし、とりあえずのハイボールを頼んだあとで、備え付けのカードに注文する串カツの数を書く。壁には「2度づけ禁止」「キャベツでソースをすくうやりかた」の貼り紙がある。

「なんにする?」
「豚4本、牛2本…もちとチーズとナス…ウィンナー…」

ついでにとんぺい焼きも頼み、手持ち無沙汰になったので、ぼんやりと店内を眺める。

夫婦で来ているらしき人、友人と2人でゆっくり話をしている様子の人、久しぶりに会った地元の同級生らしきグループに遅れてきたメンバーが合流してワハハと声が上がる横を、ちょうど入店してきた小学3年生ぐらいの男の子とお母さんが笑顔ですり抜けてテーブルに座るところだった。

程なくして運ばれてきた串揚げととんぺい焼き。ラベルが剥げかけた角デザインの串入れの趣きが良すぎるではないか。

とんぺい焼きを食べるたび、私の育った街にはなかったなぁと思う。大阪に来てから知った食べ物のひとつだ。ソースとマヨネーズと玉子と豚肉。美味しくないわけがないレジェンド的組み合わせなのに、大阪外にはあまり広まらないのはなんでだろ?

「この店、結構あちこちにあるよねぇ?」
「そうなんだ」

関西を中心に展開してるチェーン店だった。でもチェーン店こそ、その土地のカラーって出るものだと私は思っている。

明るい店内に、さまざまなグループがやってきて楽しそうだったり真剣そうだったりしながら語り合い、それぞれがおいしい顔をしている。さっき入ってきた男の子とママさんは額を寄せ合って楽しそうに笑っていた。母と子だけで週末の夜に気軽に入れる居酒屋、めちゃくちゃいいよな。今度、私も子どもたちとこようかな。

ほどよく酔っ払って、来た道を歩いて帰る。「徒歩圏内にちょうどええ感じの居酒屋が何軒もあるのいいよねぇ」と言ったら「毎回それ言うよね」と、夫から返ってきた。それだけこの街が気に入っているんだよ。だからこれからも、私は同じセリフを言うだろうね。

この記事を書いた いくのなライター

七ツ目
七ツ目
出身は中部地方ですが、すでに人生の半分以上を生野で過ごしています。
人間と美味しいものとお酒が好きです。
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