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コテコテのコンビニに通う

週に3回はお昼ご飯を買いに行くコンビニがある。全国規模の大手チェーンのどこにでもある普通のコンビニだが、私はこの店がどこのコンビニよりも好きだ。近所だからというわけではない。この生野という街らしいな、と思うからだ。

自動ドアな入り口をくぐると、自分の親ぐらいの年齢の高齢な女性店員さんが出迎えてくれる。「あら!こんにちは!」と言われて「こんにちは〜」と笑顔で返す。その雰囲気は、コンビニというより近所の個人商店だ。しかし改めて念押ししておくと、ここは全国どこにでもある超大手コンビニである。

パスタをレジに持っていくと、高齢の女性店員さんから「温める?」と聞かれる。「温めてください」と答える。「袋はいる?」と聞かれる。「袋もください」と大きく頷く。レジに入力したあとまた「温める?」と聞かれるので、もう一度「温めてください」とジェスチャーを交えて伝える。

「いつも同じこと何回も聞いてごめんね」とあやまる高齢の店員さんに「いえいえ、全然大丈夫ですよ」と、顔の前で左右に手を振った。

高齢化著しいこの街では、誰もが働き手でもあり、いずれは私も行く道である。何年もお付き合いする中で、最近この店員さんは加齢とともに同時に2つ〜3つの事を伝えると混乱する様子が増えてきた。だから、店員さんは自分から繰り返し聞いてしまうことを「ごめんね」と謝るのだろう。そして私も「袋アリで温めて箸じゃなくてフォークつけてください」のように、一気に言わないようにしている。

また、このコンビニでは外国人留学生の店員さんもよくレジに入っている。ころころ新商品に置き換わるコンビニのホットケースの中の難しい商品名は伝わりにくい。そういう時も、「これこれ!下!下!右の赤いやつ!そう、それ!」などと、なるべくゆっくりはっきりジェスチャー混じりで話すようにしている。これも、多文化なまちで身に着けたコミュニケーションのひとつである。

温めながら、たわいもない世間話もする。今日は暖かいねとか、明日は雨らしいですよ、とか。店員さんから大阪市内に住む娘の話を聞かせてもらった事もあった。最近入ったおすすめの新商品の話をしたこともある。近所の個人商店で買い物をしているノリだが、ここはやっぱり全国チェーンのコンビニである。

温かいパスタをぶら下げて店を出ると、すぐ後ろで声がした。
「おとうさーん!これいらへん??」
隣のレジにいた若い女性店員が、お客さんを追いかけて出てきていた。手にはお札が何枚も握られている。どうやらお釣りを取り忘れたらしい。

声をかけられた初老の男性が「おお!いるわ!いるいる!えらいこっちゃ!」と目を丸くして、女性店員も「せやんね」と答えたあと、2人でアハハと笑っていた。

ちなみに、大阪の人間は自分の親でもない相手を気軽に「おとうさん」「おかあさん」と呼びがちである。これは親しみを込めた敬愛の表現だ。大阪度がコテコテの生野という街も、しっかりこの傾向がそこらかしこにある。だからもちろんこの初老の男性も、女性店員の父親ではない。それでも「おとうさん」とナチュラルに呼び、呼ばれたほうもナチュラルに答える。

今日もコテコテやな、と私は心の中でふふっと笑いながら、温かいパスタをぶら下げて道を歩いた。

この記事を書いた いくのなライター

七ツ目
七ツ目
出身は中部地方ですが、すでに人生の半分以上を生野で過ごしています。
人間と美味しいものとお酒が好きです。
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