医は仁術
自宅前の掃き掃除をしていたら、一人の高齢女性が通りかかった。顔だけは知ってはいるが、親しくはない。どこかで顔を合わせたら「こんにちは」と挨拶はする。そのくらいの知人・・ともいえないほどの関係だ。
その時も「こんにちは」と言葉を交わし、箒を動かし続けていた。
「これからね、病院へ行きますねん」女性は手押し車を止め、唐突に話しかけてきた。どう答えていいのか迷っているうちに、「今まではねぇ・・○○医院に行ってましたんや。腰は痛いし膝もいうこときかんし・・。けどね、最近病院を変えましたんや。お姉ちゃんん知ったはる?商店街の中にひとひとっていう病院ができてますねん。そこに変えましたんや」
病院へ行くというのに、何が嬉しいのか彼女は一気に話した。
「知らんがな」と心の中では半笑いになってる自分がいる。「私も通ってるんですよ、いい先生ですよね」と答えたかったけれど、そう言ってしまうと、どうして通っているのか?持病は何か、いつから行っているのか・・まで答えなければならぬような気がして、ポケットの中のスマホを取り出し、電話がかかってきたふりをして「すみません、お大事に」と、自宅に戻った。
別の日に、生野区在住の人たちが10人ほど集まり話しをする機会があった。色々な話題が出たのだが、ひとひとケアクリニックの話にもなった。
集まりの中心的人物が「あのクリニックにはだいぶ人を送り込んでやった(笑)」とお酒の力も手伝ってかそんな冗談で笑った。
ひとひとケアクリニックがやけに混み出したのは、貴男のせいなのね。
1月の診察日、クリニックへ行くと待合室に書道のセットが置いてあった。書き初めをしましょうということか。壁を見るとすでに何枚もの作品が飾られている。
今年の決意や夢が白い半紙に墨の色で文字になっている。やはりここはクリニックだなと思ったのが「今年こそ減量」「○○キロダイエット」という内容のものがやけに多い。おお、仲間だ。と、喜んでばかりもいられない。やはり肥満は病気の元なのだとここで確認できる。
2月は、ひとひとケアクリニックの中村医師は、鬼の格好にでもなって診察室に座しているのだろうか。恵方巻きのオブジェでも飾られるのだろうか。
そう思うと、診察も楽しみになる。
「医は仁術」という。しかし江戸時代の赤ひげ先生ではあるまいし診療費のかわりに我が家の畑でとれた大根を・・というわけにもいかない時代だ。
ひとひとケアクリニックには、個人の医院としてはとても珍しいMRIまである。
開院したときに「お祝いMRIを撮りにいこう」と話し合ったりしたものだ。
算術も、医療には必要だと思う。
中村医師は、いつも笑顔の穏やかなドクターといったイメージだが、脳神経外科が専門で以前の勤務先の病院では何百もの(正確な数字は知らないが)もの脳の手術を手がけたと聞く。
手術前は、きっと厳しい表情になったのだろう。その顔を見てみたかったと、ふと思う。
(ひとひとケアクリニックのHPから写真を拝借いたしました。)




この記事を書いた いくのなライター

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エッセイスト
生まれと育ちは京都市山科区
生野区に嫁いできて40年
いくのの日のライターとして
「毎月19日はいくのの日」の周知を目指します
いくのの日の旗があると、初めての店に入りやすく
初対面の人ととの会話のきっかけになるという経験があり
人見知りで緊張しがちな自分の中のハードルがぐんと下がる
そんないくのの日の旗を多くの人に知ってほしい。
好きな作家は宮部みゆきと桜木紫乃
歴史と地形の高低差やへりに目がない62歳
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